生きていくことが辛い夜に
20年近く、距離は離れていても、常に繋がっていた。そんな唯一無二の男との思い出を、沖田臥竜が綴る。

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何か悪い冗談ではないかと感じずにはいられない。今でも電話がかかってきそうだ。日が経つに連れ、私も現実を受け入れ、実感するのだろうか。
優しい男だった。人生で、自分のことを裏切らないと思える人間を何人作ることができるだろうか。私は多くなくても良いと思っている。ただ、私自身は人を裏切らずに生きていければ良いと考えている。
この10年、私なりに走り続けてきた。いつしか仕事が趣味みたいになり、さまざまな仕事を手掛けることに喜びを感じることができている。仕事の辛さなど、生きてきた過去に比べると大したことはない。ひたすらに朽ち果てるまで、働き続けるだけだ。
それでも苦しい夜もある。
最期の会話が、いつもと違う声色だった。
「覚悟しとってよ」
私は笑い飛ばした。
「何を言うてんねんな」
病が進行していることは、一応、理解していた。それでもまさかこんなに早く逝くとは思いもしなかった。
4月25日の午前中、電話で、一足先にバンコクへと旅立つフクと話していた。その時にキャッチが入ったので、かかってきた相手を確認した。洋輔。その名前を見て、私はこれから聞かされるであろうことを瞬時に理解することができた。
「そしたら、6日にはオレもバンコクに着くから、何かあったらLINE電話してきてな〜」
「はい!沖田さんも気をつけてお越しください!」
フクの電話を切ると、ひと呼吸おいて、私は洋輔に掛け直した。
ーそっちの世界はどうなん?えらい水くさいことするやん。先に逝ったみんなはいてんの?ゆうてたやん。6月には新薬ができて完治するって。兄弟!お願い!どうにかしてって言葉がずっと頭に残ってて、今でも信じられんて。オレはずっと金を残せたらいつ死んでもええって思ってた。早く楽になりたいって、毎日、考えてた。でももう思わんで。オレは最期まで生き抜くで。見とってや。オレっていう男の生き様を。しっかり見とってや。そっちにはなかなかオレは逝かんて決めたで。生きたいって言葉にして言ってこと。死ぬのが怖いって言ってたこと。オレは胸に抱いて兄弟の分も生きていくで。
だから心配いらんで。あとのことは何も心配いらんで。もうゆっくり休んでな。ほんまに色々と有難う。温かくいつでもオレの味方でいてくれて有難うー
柔らかな春の日。兄弟がこの世を後に旅立っていった。